男の髪の毛が、上へ向いて来たのを認めます。その時、長老が出て肩をたたき、
「まあ、さのみ憤《いきどお》りたもうな、天下に憤るべきことは多いのに、僅かこの一小事……」
となだめにかかったのを、右の男はききません。
「いや、世には大事に似たる小事もある、小事に似たる大事もある、斯様《かよう》なことは一小事ではござらぬ……利益のために己《おの》が山をこわす輩《やから》は、利益のためには己が国をも売る輩でござる。昔は天津橋上《てんしんきょうじょう》に杜鵑《とけん》の啼《な》いたのを以て、天下の変を知ったものがあるではないか。お膝元から僅か十五里のところで、無残にも霊山を食い物にしている、それを抑えることができない……」
ここに至ると、神楽師《かぐらし》の仮面は、遠慮なく剥落《はくらく》してしまい、
「モシ、われわれが天下を取った暁には、廃仏毀釈《はいぶつきしゃく》を断行する」
とさけびました。
この男は仏教そのものも多少は知っているし、また仏教そのものが日本の文明に寄与した功績も多少心得ているらしいが、現在の仏寺と、僧侶の腐敗をもかねて、大いに憤慨していたものらしい。これよりいくらもたたな
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