になりますか」
「はい、江戸は芝の三田四国町というところを、たずねてまいりますのじゃ」
「三田の四国町へおいでなさるのでございますか」
「四国町の薩摩さんのお屋敷へと、たずねてまいりたいと思いましてな」
「え、四国町の薩摩様……」
といって、七兵衛が、それからあと、「こいつは大変な代物《しろもの》だ」と口の中でいいました。
その三田の四国町の薩摩屋敷は、今天下の風雲をねらうものの巣になっている。これを七兵衛はよく知っている。そこへ乗込もうという神楽師ならば、これは探りを入れるまでもない、金箔付《きんぱくつ》きの神楽師だと思いました。
しかし、また、仮りにこうして姿をかえてまで江戸へ乗込もうという連中が、その行く先をアケスケに、薩摩屋敷だといってしまったのでは正直過ぎる。
これは多分、自分が見る影もない百姓だから、この位は打明けてもさしつかえないとタカ[#「タカ」に傍点]をくくったのかも知れない。
その晩、七兵衛がこれらの連中と枕を並べて寝た夜中に、ふと胸に浮んだことがあります。それはほかでもない、このごろ、この武蔵と、相模と、甲州方面の境で、夜な夜なしきりに怪しい神楽太鼓の響き
前へ
次へ
全288ページ中245ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング