んな」
 人夫頭が憎さげな眼で七兵衛を見ました。七兵衛は頓着せず、
「全く、これを伐ってしまうのは惜しうございますよ、なんとか工夫はないものですかな。第一車を仕掛けて、どうなさろうというんで……」
「そんなことは知らねえよ、おれたちは伐れというから、伐っているだけなんだ」
「なるほど……」
 七兵衛はなお立去らず、大木の森をながめていると、
「おいおい、邪魔になるから向うへ寄っていな」
 人夫頭が叱ります。七兵衛は二足三足、わきへ寄って、なお物惜しそうにながめていると、人夫たちが、からかうように、
「おい、お前さん、何かこの木を伐《き》って文句があるなら、、おれたちにいったって仕方がねえから、お宮へでも、お寺へでも尻を持って行きな。おれたちは、ここを伐れといえば、ここを伐るし、あすこを削れといえば、あすこを削る、おゆるし通りに仕事をしている分のことだぜ」
 そこで七兵衛は沈黙してしまいました。
 七兵衛のような心なき盗賊でさえも、これはあまり無茶なことだと思いました。この山は、お宮とお寺とで管理している山。お宮は樹木が御神体のようなもの。昔の出家は木を植えて山を荘厳《そうごん》にしたの
前へ 次へ
全288ページ中238ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング