にと、嘆息したものだと解釈して、夜学の先生を狼狽《ろうばい》させたこともあるのです。
 事実、七兵衛にとっては、世間の人のすべてが欲しがる金銀財宝は、無条件で手に入れることもできるし、また世間の人の羨ましがる名所ゆさんも、気の向くままにやってのけられるのだが、自分としての幸福や愉快は、そこには得られないで、こうして、あたり[#「あたり」に傍点]前の百姓として藁《わら》を打っているところに、無上の平和と愉楽のあることを思えば、世間の見るところと、求めるところと、本心のそれとは、みな逆にいっているものだとしか思われないのであります。
 こうして七兵衛は、自分の早足を載せる草鞋をつくっている。雨は小やみなく降っている。近隣はいと静かで、裏の娘が織る機《はた》の音さえ、かえって物わびしい風情を添えるばかりです。
 その機の音を聞くと、七兵衛は、あの娘も年頃になったが、間違いのないうちに、早くよいところへ嫁《かたづ》けてやりたいものだと思いました。
 そうして七兵衛は、その昔、自分が青梅街道へ捨てた子供のことまで考え出して、いま、無事に育っていれば幾つになると、草鞋をつくる手を休めて、その指を折
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