っぴき》ならぬ相手につかまったものと観念をしたのでしょう、お角の案内に随って、遠慮をするお松を引具《ひきぐ》して、ついにこの小屋へ足を向け、
「相変らずエライことをやり出したな。なに、切支丹の魔術……それは面白い。この看板は誰がかいたのじゃ、日本人に描かしたのか、彼地《あっち》から持って来たのか。向うの下絵によって写したと。なるほど、横文字入りで変った図柄じゃ、とにかく、これだけのことをやり出したお前もエライが、向うへ渡ってこれを持って来た奴もエライな。ナニ、春日長次郎……柳川一蝶斎の一座で先立ちして来た男だと。知らん、すべて拙者はまだ日本のものも、西洋のものも、手品というは評判だけに聞いて、本物を見るのは今日がはじめてじゃ。日本のものを向うへ持って行けば相当に面白かろう、むこうのをそのままこっちに見せることは一層珍しい。誰が周旋してくれたのじゃ。ほかの興行と違って、見る人に新知識を与え得るものでなくてはならぬ」
 駒井甚三郎はこういいながら、相撲茶屋から御簾《みす》の桟敷《さじき》へ案内されました。

         三

 駒井甚三郎とお松が案内された席は、ついたった今、お梅がそ
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