が何ともいえない不快な面色《かおいろ》になって、ひとりでじれ[#「じれ」に傍点]出してくるのが例になっています。
 寺へ、逼塞《ひっそく》して、ひとたび心の洗濯もしてみたけれど、額に残る淫眼の傷は拭えども去らず、消せども消えず、それを見るたびに神尾が、怒りつ、焦《じ》れつするのもまた無残なるものであります。
 ところで、この神尾が、移り住んで来たその身のまわりの世話をしている女が、寺男の女房のお吉であることも、この世界にはものめずらしいばかりであります。
 お吉は引越しの当座だけ、おてつだいに来たのだから、直ぐに帰る、帰るといいながら、まだ容易に帰る様子もありません。また、神尾としてもいま、お吉に出られては、差向きこまるから、かわりのあるまでと、無理に引留めてはいるらしい。
 神尾をこうして、再び江戸の方へ引張り出した有力な策士は、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵であることまぎれもないが、百蔵とても、今はさかさにふる[#「ふる」に傍点]っても水の出てこない神尾を、かつぎまわったところで仕方があるまい。
 これは、本来の目的がはずれて、まぐれ当りに神尾にぶっつかり[#「ぶっつかり」
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