ておいたのを持って出て、
「これでよろしうございますか」
「それで結構」
 駒井甚三郎は一方の脇の床几《しょうぎ》に腰をかけて、花立を置いた前の机の上でなにがしかの金を包み終り、
「婆さん、筆をお貸し」
「はいはい」
 老婆は、蒔絵《まきえ》のある硯箱《すずりばこ》の蓋《ふた》をとって、水をさし、駒井の前へ置くと、駒井は墨をすりながら、
「婆さん、お前は、なかなかよい墨筆を使いますね」
「いいえ、お恥かしうございますよ、あなた様」
「嗜《たしな》みがよい、お前は和歌《うた》をやりますか」
「いいえ、どう致しまして」
 駒井が、それに感心したのは、独《ひと》り住《ず》みの門前婆さんのことだから、筆墨を所望《しょもう》されたら、狼狽してほこり[#「ほこり」に傍点]の溜ったのを吹き吹き、申しわけをしながら、やっと取り出さないまでも、こんなに念の入ったのを出されようとは案外で、どうしても、和歌《うた》の一つも書きつけているものでなければ、こうは嗜みが出来ないはずと思ったからです。
「いや、お前は和歌《うた》をやりそうじゃ、さいぜん[#「さいぜん」に傍点]、あの墓の前でふとお前の姿を見た時に、絵
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