ることができたので、その一夜の物語で何か自分に、非常に力強いものを与えられたような気がしました。
 翌日の朝まだき、駒井甚三郎は、この家を辞して行きました。書物は取りによこすからそろえておいてくれるように、自分の居所はまだ明かせないが、そのうちくわしく知らせるからといって……
 駒井が例の如く籐《とう》の鞭を振って立去る姿を、門に立った一学は、朝靄《あさもや》の中に見えずなるまで見送っていました。

         二十

 駒井甚三郎は、生きては再び足を踏む機会はあるまいと思ったわが家へ、計らず帰って見ると、そこにおのずから感慨無量なるものがあります。
 連綿とつづいたわが家を、自分の代に至って亡ぼしてしまった。それも、自分にとっては問題にならぬことながら、社会的には無上の汚辱。どう考えても同情の余地のないふしだらのために、一代の嘲笑の的となりつつ葬られてしまった。
 よし、駒井甚三郎は、わが身の愚劣と、世間の審判の愚劣とに呆《あき》れ果てて、別に天地を求めて生きるの道はいずれにも開かれているとはいえ、先祖の位牌に塗られた泥土は拭うべくもあるまい。また後代の駒井の家の祭りをここに絶
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