あったのに、この駒井の一旦の情慾から、それを殺してしまったのだ。この復讐が来るならば、いかに深刻に来《きた》るとも甘受しなければならない」
 一学は、主人のいうところに熱情の籠《こも》ることを感じました。けれどもその論旨の意外なるに服することができません。
 一切の責《せめ》われにありと主人がいうのは、世の常の自制でもなければ、あきらめ[#「あきらめ」に傍点]でもない、真にその通りに自覚して己《おの》れを責むるの言葉としか思われないことが、一学にとっては甚だ意外でありましたのです。
 何となれば、一学は、今までわが主人のために、世間と人間とを責めてやまなかったからです。わが主人ほどの人材を容《い》れることのできない時代は、時代が悪いのだし、またわが主人ほどの男を愛しきれない女は、女が悪いのだと、強くそう感じていたからであります。
 これは、一学の観方《みかた》にも相当の道理あることで、幕府が今日の危機に立って、非常に人材を要する時にあたり、ささやかの失態によって、わが主人ほどの人物を閑地に置く(生きながら殺してしまった)人物経済上の低能さかげんを、冷笑しないわけにはゆきません。これは一
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