まいました。しかし、駒井甚三郎は感情に制せられず、
「あれは常に気位を持っていた。気位というものは往々人を尊大に導いて、広い同情を忘れしめるものだが、その気位あるによって、犯し難い見識も品格も出て来ることがある。あれが堂上の出であり、高貴の血統ということは、わしにとっては、どうでもいいことであったが、その自負心から出でる天然の気品は、尊重せねばならぬと思っていたのだが、その自負心を根柢から動揺させたのが、誰あろう、この駒井の罪だ……甲州において、人もあろうに、あの君女《きみじょ》を愛したということが……駒井の愛情が、人交わりもできない身分の者に奪われたと知った時に、あれの気位が根柢から動揺するのはぜひもないことだ。あれの身になってみれば、それと知った時は、まさに死ぬより辛い侮辱を与えられたと思ったに相違ない――女というものが、その自負心を傷つけられた憤慨と、その愛を奪われた侮辱の苦痛の深刻な程度は、お前にもわかってはいまい、わし[#「わし」に傍点]にもわかっていなかったのだ。思えば、わしは一本の剣《つるぎ》で二人の女の魂を貫いてしまったのだ。その二人とも、今の世には珍しいほどの純な心で
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