表御門をおあけ申しますから……」
絶えて久しい主人が、こうして夜陰《やいん》にブラリと尋ねて来たものですから、一学も最初は妖怪変化《ようかいへんげ》ではないかとさえ驚きあやしみ、且つ喜びました。
飛ぶが如く表門へ駈け出して、門を開き、主人を案内はしたが、それを堂々と表玄関へとおすことができず、自分が今まで内職をしていた長屋の中へ、ひとまずお連れ申さねばならぬ運命のほどを悲しみました。
駒井甚三郎は、さのみ悲しむ色もなく打通って、
「勉強しているな」
「はい、おかげをもちまして」
一学は何ともつかず返事をして、取って置きの敷革《しきがわ》を出して主人にすすめる。
「殿様、これは夢ではございますまいかと、私は存じまするが、夢ならば、さめないうちにおたずね申し上げなければなりませぬ。ただいままで殿様には、どちらにおいであそばしました、そうして何故に、ただいままでお便りを下さいませんでしたか」
一学は両手をついて、主人にたずねました。
「便りをしないことは悪かったが、便りをしないことが自他のためであったのだ。それはそうと変ることはなかったか……と尋ぬるも異《い》なものだが……」
「奥
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