れはお梅にとっては一大事で、南部表にしゅちん[#「しゅちん」に傍点]の鼻緒。鼻緒にも、蒔絵《まきえ》にも、八重梅が散らしてある。当人も自慢、朋輩《ほうばい》も羨ましがっていたポックリ[#「ポックリ」に傍点]を、半分持って行かれたから、口惜しがるのも無理はありません。みんな持って行かれたわけではない、半分は残っているのだけれど、下駄の半分ばかりは、残されたところで有難がるわけにはゆかない。
二階ではお角がおかしくもあるし、腹も立って、それでも、あの野郎、神尾の殿様が来るとか来ないとか、頼まれた用事もあってやって来たらしかったが、それをいい出す暇もなく逃げ出してしまった。こちらもなお聞きただしたいこともあったのに、かんしゃく[#「かんしゃく」に傍点]紛《まぎ》れにとっちめて、薬が利《き》き過ぎた。しかし、どのみち二三日たてば、ケロリとして出直して来る奴だと思いました。
おかしかったのはその翌日の朝、両国橋の女軽業のおちゃっぴイ[#「おちゃっぴイ」に傍点]の一人が目の色をかえて、お角のしもたや[#「しもたや」に傍点]へ飛び込んで来て、
「親方、大変です、梅ちゃんが心中をしてしまいました」
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