かと思うと、お角の胸が、またむしゃくしゃ[#「むしゃくしゃ」に傍点]する。いきなり、その美しい模様の縮緬の夜具蒲団をズルズルと引張り出して、その上にゴロリと寝そべり、
「梅ちゃん、梅ちゃん、済まないが煙草盆を持って来ておくれ」
 腹這《はらば》いになって、お梅の持って来てくれた煙草を二三ぷくのみました。
 暫くすると表格子で、
「今晩は」
「どなた」
 おさらい[#「おさらい」に傍点]をしていたお梅が返事をしますと、
「入ってもようござんすか」
「金助さんですか」
「ええ、その金助でございますよ」
「お入りなさいな」
 格子戸をガラリとあけて入って来たのは、金助に違いありません。
「梅ちゃん、親方は……」
「おかあさんはね……ちょっ[#「ちょっ」に傍点]とよそへ参りましたよ」
「え、留守ですか。留守で幸い、梅ちゃんの前だが、親方は怒ってやしませんか」
「いいえ、別に」
「金助の野郎、出入りを差止めるなんていいやしませんでしたか」
「そんなことはいいやしませんよ」
「それで安心……」
 金助は大仰に胸を撫で下ろす真似をしながら、ソロソロと上り込みました。
 この野郎も、おっちょこちょい[
前へ 次へ
全288ページ中167ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング