「お嬢様はいらっしゃらないのですか」
「ああ、お嬢様は今日からよそへおいでになったんだから、あとは、わたしが引受けるのさ」
といって、さっさと二階へ上ってしまいました。
二階へ上って見ると、綺麗《きれい》に取片付けてあるのがよけいに腹が立つ。机の上の置手紙のしてあるのも、見るのが癪《しゃく》だ。
「わがままのやんちゃ[#「やんちゃ」に傍点]者」
戸棚をあけて見てもかわったことはない。お好み通りにととのえて上げた歌の本、読本《よみほん》、絵草紙の類まで耳をそろえてキチンとしている。
藤の花を一面にえがいた大屏風《おおびょうぶ》を引きのけて見ると、手ぎわよくたたまれた縮緬《ちりめん》の夜具《やぐ》蒲団《ふとん》。
「お嬢様という人も、お嬢様という人じゃないか、子供じゃあるまいし、出るなら出るとことわってくださりゃ、いけないとはいいませんよ。ごらん、わたしたちはああして、下の方に、夜かぶりだってなんだって奉公人同様にして、お嬢様にはこの通り、何一つ不足という思いをさせて上げた覚えはないのに、いくらお嬢様だって、あんまり義理というものを知らな過ぎまさあ」
これほどにして置いて逃げられた
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