たたき殺されているのだが、容易に死なない。今もまだその通りで、おれ[#「おれ」に傍点]が死ぬとは思っていないが、死というものが、見るもめざましく眼前に押寄せて、自分を窒息させようとしているのに、それにまとも[#「まとも」に傍点]にぶつかって、周章狼狽しているのです。
 壁を穿《うが》って海を発見したように、土を掘って天を見出したように、お君というものに死なれて、そこから涯《はて》と底との知れない冷たい風が、習々《しゅうしゅう》として吹き出したのに、米友は、恐れ、あわて、おどろき、悲しみ、憂えて、名状すべからざる奇観におちいっているのであります。
 そうして、なお悲惨なのは、米友にあっては、この苦痛をまぎら[#「まぎら」に傍点]かす手段のないことであります。真正面からその苦痛と戦って、直接に解決が終るまでは、一時何かの魔睡によって、その神経を眠らせておくということのできない男であります。
 その夕方、伝通院の墓地にまぎれ込んだ米友は、墓地の中をあてどもなしに歩き廻って、しきりに墓を動かしてみました。
 伝通院は家康の生母水野氏の廟所《びょうしょ》。そこには徳川氏累代の貴婦人の墓が多い。或
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