十七
宇治山田の米友は、このごろ深刻に苦しんでいます。
死というものに初めて直面した苦しみを、まとも[#「まとも」に傍点]に受けて、八百長なしに取組んでいるのですから、その苦しみは惨憺《さんたん》たるものであると共に、名状すべからざる奇観です。
米友といえども、死というもののこの世(或いはあの世との境)に存在することを、いま初めて知ったわけではありません。今更、足もとから鳥の飛び立ったように、「死」というものに驚きさわぐのは、滑稽なようですけれども、「死」の存在を知って、その来《きた》る瞬間までそれを怖るることの少ないのは、多くの人間の常であります。
「今までは人のことだと思いしに、おれ[#「おれ」に傍点]が死ぬとはこいつ[#「こいつ」に傍点]たまらぬ」――死の来る目前まで、舞踏歓楽し、死の直面に来って、はじめて恐怖狼狽する人間の通有性を、米友もまた御多分に漏れず持ち合わせていればこそ、こいつ[#「こいつ」に傍点]たまらぬと噪《さわ》ぎ出したのか知ら――いや、当人はピンピンしている。まだたたき殺しても死にそうもない体格に、ゆるみは来ていない。事実、この男は一度も二度も
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