「その通り」
「曾我の兄弟様が工藤祐経様《くどうすけつねさま》をお討ちになった……」
「それに違いないじゃねえか」
「太閤様のところへ、石川五右衛門様が盗賊にお入りになった……」
「そうだとも」
「それじゃ先生、どちらがいい人間だか、悪い人間だか、わからなくなっちまいますね」
「べらぼう[#「べらぼう」に傍点]様、天のような広い心を持て。天は悪い奴にも、いい奴にも、おなじように日を照らせたり、雨を降らせたりする」
 先生の気焔が、いよいよあがって、ものやわらかな豆腐屋の隠居では受けきれなくなりましたから、デモ[#「デモ」に傍点]倉が代って出ました。
「そうすると先生、たとえば芝居を見にいってもですね、団十郎様が由良之助様《ゆらのすけさま》をおやりになったとか、九蔵様の実盛様《さねもりさま》を拝見して来たとかおっしゃるんですか」
「そうだとも。第一、役者だからといって、横町のおちゃっぴイ[#「おちゃっぴイ」に傍点]までが呼捨てにするのは怪《け》しからん、氏《うじ》とか、様とかつけるべきものだ。昔は女寅閣下という名を使ったものさえある」
 そこで、芸名を呼ぶに様をつけて敬意を表する以上は、
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