込みは勇ましいもので、自分にしてからが、上様だとか、公方様《くぼうさま》だとかいう口の下から、現在自分が世話になっている大切の薬籠持《やくろうもち》に対しては、国公だの、この野郎だのと、頭ごなしにやっていたのは、相済まないわけである、今後は上様、公方様、殿様、爺様、婆様、おびんずる[#「おびんずる」に傍点]様並みに、国公を呼ぶにも国公様を以てする――門弟の道六に対しても、子分のデモ[#「デモ」に傍点]倉、プロ[#「プロ」に傍点]亀らに対しても、お出入りの馬鹿囃子に対しても、野幇間《のだいこ》の仙公に対しても、その通り、例外というものがあっては平等が意味をなさないと、スバらしく気焔を揚げたものです。すると物和《ものやわ》らかな豆腐屋の隠居が、
「先生、それではいかがでゲスな、物の本に出ておりまする昔の英雄、豪傑といったような者も、みな『様』づけでお呼びになりますか」
「そうだとも、無論のことだ、英雄、豪傑というものは神様の次だ」
「そう致しますると先生、弓削道鏡様《ゆげのどうきょうさま》が和気清麻呂様《わけのきよまろさま》を……」
「そうだとも」
「楠正成様が足利尊氏様に亡ぼされ……」

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