しません。
 しかし、先生はまたあらたまって、薬研《やげん》の軸を取り直し、真面《まがお》になって、
「ところで今日、こうしてお集まりを願ったのは、余の儀でもございません、さいぜんも申し上げる通り、拙者も近頃、つくづく自分の非を悟った点があるのでゲスから、その点を皆様の前で改めると共に、一つのお約束を致しておきてえんだよ」
 おきてえんだよ……が少し納まらない。
 道庵先生ほどのものが、自分の非をさとって、それを公衆の前で懺悔すると共に、且つ、今後の実行に現わして約束をしようというのは、よほどの道徳的勇気がなければできないことです。
 けれども、ここに集まっているやから[#「やから」に傍点]に、道徳的勇気なんぞの呑込める面《つら》は一つもないのであります。ないからといって、先生は少しもそれを軽蔑するような風情《ふぜい》はなく、諄々《じゅんじゅん》として説きはじめました。
「その昔、奈良朝のころに、帝《みかど》の御病気のお召しにあずかった坊主で、医者を兼ねた何とかいう奴があったが、車に乗せられて帝の御所へいそぐ途中に、見るもあわれな乞食が路傍で病気に苦しんでいたものだ、それを件《くだん》
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