は阿礼《あれ》の社《やしろ》より向うへは通さぬ」とか、髪をふり乱し、五体をわななかせ、油汗を流して、呪わしい言葉を口走っている。それを正直に女中たちは、身の毛をよだてて怖れている。その時どうしたのか、急にこの席を外《はず》して立ったのが、この宿の番頭で、まっくろい面《かお》をしながら、うろたえて帳場へ戻って坐り込んだが、落着かないで、物につか[#「つか」に傍点]れたように眼を据《す》えている。
昨晩、女が血相変えて飛び出したのを、留めてみたのもこの番頭で、あの前後のことをうすうす知っているから、只今の巫女《いちこ》の出鱈目《でたらめ》がこの上もなく気になって、席に堪えられなくなったものと見える。
番頭がぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]して帳場へ坐り込んでいるところへ、今朝早立ちをした仏頂寺弥助が先に立ち、後ろには戸板に人を載せて人足に担がせて、ドヤドヤと店頭《みせさき》へ入り込み、
「塩尻峠の上でちっとばかり怪我をしたから戻って来た、また厄介になるぞ」
番頭は、この時、面色《めんしょく》が土のようになり、よく戻っておいでになりましたともいいませんでした。
十六
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