さてまたここは江戸の下谷の長者町。道庵先生は何を感じたものか、俄《にわ》かに触れを廻して、子分のならず[#「ならず」に傍点]者や、近処のワイワイ連を呼び集めました。
何事ならんと馳《は》せ集まった者共を前に置いて、先生は薬研《やげん》の軸を斜《しゃ》に構え、
「皆様、早速お集まり下さいまして……」
先生としては、極めて鄭重《ていちょう》な物のいいぶりでしたから、集まったものが、少し様子が変だと思いました。
変だと思ったのも無理はありません。こういう場合において先生は、いつも野郎共呼ばわりをして傍若無人に振舞うのに、今日に限って、皆様だの、お集まり下さいましてだのと、改まり方が急激でしたから、集まったものも、あんまりいい気持がしませんでした。
けれども、何か、先生も急に発心《ほっしん》したことがあればこそ、こう殊勝に改まったものに相違ないと思うから、みな、神妙にうけたまわっておりますと、先生はおもむろに、
「さて、皆様、実は拙者も、近ごろ悟るところがございまして、皆様の前で、今までの非を改めると共に、今後をお約束致しておきたいことがあるのでございます、それでお忙がしいところ
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