ります。土下座をきった駕籠屋、馬方が、生気《いき》を吹き返したのもこの時で、
「誰だい」
「そこへ来たのは誰だい」
お雪が早くも戸の傍へ立って、
「先生ですか!」
「ああ、いま戻りました」
戻ったというのは、地獄から戻ったのか。その声は、たしかに地獄から響いて来たもののような声です。そうでなければ、自分たちが地獄から解放されたような心持で、従って、外なる人の言葉が、まだ地獄の底に救われない人の声のように聞きなされるのでしょう。それでもお雪は、ふるえつくように戸へ手をかけて、
「先生、ほんとに御無事でしたか、お怪我はなさいませんでしたか」
いきなり戸をあけようとするから、久助が心配して、
「まあ、お待ちなさい」
主《あるじ》と、駕籠屋、馬方は、油断なく万一に備える心持で、まだ得物《えもの》を手放さないでいると、
「大丈夫ですよ、それほど用心しなくとも。たしかに先生の声ですもの」
といって、お雪が戸をガラリとあけましたが、あけて後、失神したもののように驚いて、後ろへさがりました。
「まあ……あなたは」
そこに、たしかに竜之助が立っているには立っていましたけれど、その人は血をあびて
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