かかったお雪を抱き込んで、
「戸、戸、戸を締めて下さい……」
そこで、この家の主人《あるじ》が先立ちで、駕籠屋、馬方など避難の連中が、ビシビシと戸を締めきり、内から枢《くるる》を卸した上に、心張《しんばり》をかい、なお、万一の時の用意に、慶長年代の火縄の鉄砲を主は持ち出し、駕籠屋は息杖《いきづえ》をはなさず、馬方は手頃の棒を持っていました。
久助とお雪は、裏口へまわって物置の蔭に小さくなって、
「だから、先生を馬から下ろさなければよかったのに……」
「だって、下りてしまったんだから仕方がねえ」
「きっと、ここへやってくるわ、もし、この家をこわしてしまったら、どうしましょう、逃げ出したって一筋道だから、捉まるにきまっているわね」
「ここの主人《あるじ》が鉄砲を持っているから、安心しなさいよ」
けれども、事実、その鉄砲がどのくらい威力あるものだか覚束《おぼつか》ない。
今や、締めきった戸を割れるばかりにたたくもののあることを期待し、それが、いよいよ戸を押し破ったなら、その時こそ最後……と腹をきめるよりほかはない。
お雪は、久助の懐ろに息を殺している。
ところが、おそい来るべきは
前へ
次へ
全288ページ中128ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング