無慈悲にその肩を左に開くと、侮《あなど》りきっていた高部がよろめいた途端を、左の手で突放《つっぱな》したと見る間に、
「あっ!」
と言って、頬を抑えて無二無三に後ろへ飛び退《すさ》ったのは高部で、ほとんど五間ばかり一息に後ろへ飛びさがって、そこで仰向けに倒れて、
「あつ、つ、つ、つ、つ」
と左の手で自分の頬をおさえると、その指の間から血が滝のように溢れ出します。それでも、右の手には早くも脇差を抜いて、仰向けに倒れながら、それを構えたが、みるみる、面《かお》の全部が溢れ出す血潮で塗りつぶされ、余れるものは指の間から筋を引いて下へ落ちます。
 竜之助は、抜討ちに高部の横面《よこめん》を斬りました。それでも、幸いにして、その横面は、頭蓋骨を二つに殺《そ》いでしまわないで、左のこめかみ[#「こめかみ」に傍点]から三日月形に、頬を伝い、骨を残して肉だけを斬って、上唇まで裂いてしまいました。高部が飛び退《しさ》ってその傷を手で押えた時に、はじめて血が迸《ほとばし》ったものですから、その瞬間に見た傷口は、なんのことはない、口が左へ耳の上まで裂けあがったのと同じことです。しかし、それも瞬間のことで、そ
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