教えて上げましょうけれど、あなたは白骨の温泉へ何しにおいでなさるの」
「身体《からだ》を丈夫にするために……」
「身体を丈夫にして、何をなさるの?」
「それは……」
「身体を丈夫にして……」
「…………」
ふと少女の立っていた燈籠《とうろう》の火が消えました。一つ消えると、すべての火がことごとく消えてしまいました。
竜之助は、こましゃく[#「こましゃく」に傍点]れた女の子だと思いました。
しかし、燈籠が消えては一歩も進むことができない。
「お待ちなさい、今、燈火《あかり》を持って来てあげますから」
まもなく、蛍火ほどの線香を掲《かか》げて、以前の燈籠に火を入れると、その燈籠の形が髑髏《どくろ》になりました。竜之助は、瞬きもせずにその髑髏を見つめていると、
「あなた、その人を御存じ?」
と女の子がいいました。
「知らない」
「では、この人は?……」
女の子は前に進んで、次の燈籠へ火を入れると、おなじような髑髏の形となりました。竜之助はそれに眼をうつし、
「やはり、知らない人だ」
「そうですか、それでは、この人は?……」
といって、女の子はまた三歩進んで、次の燈籠に火を入れると、同じくそれも髑髏の形。
「知らない」
「御存じのはずなのに……」
女の子は小首を傾《かし》げて前へと進みながら、線香の火を大事にして、
「これなら、キットおわかりでしょう」
その線香を燈籠の下に入れる。と、そこに現われたのは髑髏ではありません、まさしく女の生首《なまくび》でありました。
「…………」
竜之助は、近く摺寄《すりよ》って、その生首をつくづくとながめます。
「ちぇッ」
と彼の額に白い光がひらめきました。
金剛杖を取り直して、それを打ち倒して、首を地上へ打ち落すと、女の子は、
「そんなことをしたって駄目ですよ、あなたはこの燈火《あかり》がなければ、一足も歩けないくせに――」
と言って、その蛍火ほどの線香を、竜之助の前にかざして見せましたが、やがて、竜之助には頓着なしに、先へ進んで、つぎからつぎへとその燈籠をつけて歩きます。燈籠という燈籠は、ことごとく髑髏にあらざれば人の首です。
竜之助は、うんざり[#「うんざり」に傍点]しました。何里あるか知れないこの道を歩くには、いちいちあの首を見て歩かなければならないのか。
ふりかえって見ると、いつのまにか、後ろの方もおなじ髑髏
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