の燈籠。
 はて、ここはいったいどこだろう。昨日塩尻峠を越えたばっかりなのに――桔梗《ききょう》ヶ原《はら》か、五千石通りか……
 それを考えた時は、うつつ心の出でた時で、まもなく鶏の声が耳に入るのを覚えました。塩尻の宿《やど》の、夜明けの肌寒いのを覚えると、傍《かたえ》にすやすやとおだやかなお雪の寝息。ああ、夢であったかと覚《さと》るのは常の人のことで、この男には、夢と現実との区別がありません。否、現実はことごとく暗黒の虚無で、夢みている間だけに、物の真実が現われてくるようです。



底本:「大菩薩峠7」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年3月21日第1刷発行
   2003(平成15)年4月20日第2刷発行
   「大菩薩峠8」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年3月21日第1刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 五」筑摩書房
   1976(昭和51)年6月20日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※疑問点の確認にあたっては、「中里介山全集第五巻」筑摩書房、1970(昭和45)年12月22日発行を参照しました。
入力:大野晋、門田裕志、tatsuki
校正:原田頌子
2004年1月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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