るほど、境内を荒したり切売りしたりする。
国として霊山を伐《き》ることをゆるしたり、神社や仏閣で、その境内に疵《きず》をつけたり、また個人としてその屋敷内を切売りするようになってはおしまいです。
「亡んだ国に、山の青い国はない」という真理を、七兵衛は、それとなく知っているわけなのです。
そこで、坊へ着いた七兵衛は、案内に向ってこのことをたずねてみると、案内はかえって自慢らしく、
「おかげさまで、ああして木を伐り払って新しい道が開けますよ。あれが出来て車を仕掛けますと、女子供までのぼるのが楽になりますからな、そうなるとお山も繁昌致します、お寺も収入《みいり》が多くなるというわけで、トカク、近頃は金でございますね」
七兵衛は、それを聞いて呆気《あっけ》にとられました。そうすると案内は得意になって、
「宮方《みやかた》のお役人も、よく話がわかるものですから、直ぐに許してくれます。一旦、木を伐ってずいぶん売って儲けましたが、そこが都合が悪いので、今度は少し遠くなりますがこっちの方へ廻しました。なあに、ここでいけなければ、また別なところを許してもらいますからね。おっつけ、あの切崩しが済みますと、じかに車がしかかりますから、あんた方の骨の折れるのも、もう一息のところでございますよ」
そこで、七兵衛はいよいよ驚かされました。このくらいの山道は自分のような足の達者な者でなくとも、骨が折れるとは思われない。
寺を繁昌させたいならば、山を傷物にしないで、お寺を市中へ卸したらよかろう。この連中にまかせておいては、しまいには山をどういうことにするかわからない。今のうち警告を与えておかなければならないと思いましたけれども、警告を与えたところで、どれだけ利《き》き目があるか、あやしいものだとも思いました。こんなことを考えながら、七兵衛は、その晩は高尾の坊へとまることになりましたが、そこで四五人づれの奇異なる相客《あいきゃく》と落合いました。七兵衛が、その連中にたずねてみると、その連中は上方《かみがた》から下る神楽師《かぐらし》だといっていましたから、そのつもりで話を合わせていると、七兵衛には、どうもこの連中が神楽師だとは受取れなくなりました。
いったい、神楽師にも、いろいろの種類があるだろうから一概にはいえないはず。それでも禁裡《きんり》に由緒ある本格の神楽師ならば、こうして浮浪の
前へ
次へ
全144ページ中121ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング