れに来た職人達も、別に怪しむほどのことにも至らず、そうして無事に、十日余りを経過しました。
ところが、その翌日、かいがいしく働いているお吉を、いとど怪しく思わせたのは、その日に、荷車や釣台がかなり賑わしくこの屋敷へ着いて、一応の案内を申し入れると共に、無雑作にその荷物を運び入れてしまったことです。
一時は、お吉も人ちがいかと思いましたが、主人の神尾も充分に諒解があるらしく、お吉にもいいつけて、その荷物を一間へ運ばせてしまいました。
荷物を運びながら、お吉がおだやかでないと思ったのは、それがことごとく、箪笥《たんす》、長持、鏡台、お嫁入りの調度といったような品――はて、誰が来るのだろう。お吉は脅《おびやか》されたように胸が騒ぎました。
ここへ頼まれてくるまでの話には、神尾の殿様の周囲には、全く女気というものがなく、また自分もうちあけて頼もうとするほどの女がないのだから、ぜひにといわれて、お吉は、それを光栄とも、誇りともするような気分で、わが家気取りでかいがいしく働いているところへ、こうして物々しく女の調度がおくり込まれたから、裏切りにあったように胸を騒がせたのも無理はありません。
一時は口も利《き》けないほどになって、手に持った鏡台をあぶなく取落そうとしたのを、我慢して、差図された部屋まで持ち込み、やっと、
「どなたかおいでになるのでございますか?」
とたずねてみると、神尾はなにげなく、
「少しの間、置いてもらいたいというお客様があってね」
「左様でございますか」
とは返事をしたけれども、少しの間おいてもらいたい客人が、何しに箪笥、長持、鏡台、針箱の類《たぐい》まで持ち込むのだろう。
お吉は、なんともいえない疑惑にみたされながら、それ以上は、尋ねてみる勇気もなく、そのまま、裏へまわって風呂を焚きにかかりました。
しかし、そのお客様というのは、こうして荷物だけ先にまわしておいたが、本人というものは、容易には姿を見せません。どんな人が来るのだろうと、お吉は仕事をしながらも、それを心待ちに待ちかまえていましたが、風呂が沸く時分になっても、一向この家へ、訪《おとの》うて来る人はありません。それでは、殿様の御冗談だろうと――お吉は自分で気休めのように考えてみましたけれど、それにしては現在、送り込まれた荷物が物をいって仕方がない。どんな人がいつ来るであろう。来たとこ
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