も仲間割れがして、おのおの意見も違っているではないか。尊王攘夷の浪士とても、もとより無頼漢もあれば、真に尊敬すべき人もある。その尊敬すべき点を認めて、同情を寄せるには何の妨げもあるまいではないか。それがために、貴殿より恨まるるならば、恨まれても仕方がない」
「うむ、君が本心からそれを言うならば、我々は今後、君を待つのに裏切者を以てしなければならぬ」
「拙者はあえて裏切りをした覚えはない」
「昨日は我々の組の世話になり、今日はまた西国浪人どもの手先をつとめる卑怯者!」
「卑怯者とは聞捨てがならぬ」
兵馬はムッとして怒りました。その怒りは心頭より発したる怒りではなく、癇癪《かんしゃく》より出でた怒りでしたけれども、この場合怒ることのできたのは物怪《もっけ》の幸いでした。しかしながら、兵馬の怒るより激しく怒っているのは、山崎譲ではなく、乗物を守護して来た数名の覆面のさむらい[#「さむらい」に傍点]たちです。
さいぜんからの事の行きがかりを、彼等は焦《じ》れきって注視している。遽《にわ》かに乗物の鼻を抑えたことさえあるに、まだ小二才の身分で、山崎譲に向って、ちっとも譲らぬ談判ぶりが、面憎《
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