君は……」
 棒を持ったのが踏み留まると、同時に乗物も、これを擁護した物々しい一行も、たじろいでしまいました。
「君は、宇津木兵馬ではないか」
「おお、山崎!」
 そこで、おたがいが、やや離れて棒のように突立ったものです。
 乗物を守った数名のさむらい[#「さむらい」に傍点]たちが、早くも血気を含む。
「宇津木、君は今頃、こんなところに何をしているのだ」
 乗物の先を払って来たその人は、まさしく山崎譲でありました。
「山崎氏、君こそどこへ行かれるのだ、そうしてその乗物は?」
 兵馬は反問しました。その時は、充分に足場をみはからっていたものらしい。
「どこへ行こうとも君の知ったことではないが、僕の方から、君には充分に聞いておきたいことがあるのだ、いいところで逢った」
といって山崎は、乗物と、それを守る人々を見廻して、
「君たち、拙者はこの少年にぜひ聞いておきたいことがあるのだが……」
 それから六所明神の鳥居の中に眼をつけ、
「暫く、あれで待っていてくれ給え」
 山崎の差図通りに、乗物は、鳥居から明神の境内《けいだい》に舁《かつ》ぎ込まれて、鳥居の背後に置かれると、それを擁護しながら、一
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