うよ」
聞えないように呟《つぶや》くのは、安政仮条約の時代をよく知っているお爺さんです。
「フランスという国で、かくめい[#「かくめい」に傍点]という大戦があった揚句、今までの掟《おきて》をばかにするために、ワザとお寺や社《やしろ》をこわして、日本でいえばお女郎とかじごく[#「じごく」に傍点]とかいったような女を、神様同様に守り立てて、車に載せて押歩いたということを、三田の先生から聞きました。世が末になると、いよいよくだらないものが人気になります」
この男は、時代の作る悪人気と、悪人気に騒ぎ易い人心をなげいているらしい。
「御心配なさるほどのものじゃございませんよ」
苦労人が口を出して、
「今、江戸中での人気ある、商品の売出し広告を、ああして聯合でやっているだけなんですよ、この旗をごらんなさい」
「なるほど」
足利の絵師田山白雲と、宇治山田の米友とは、人気者の行列とは、没交渉であるから、白雲は語りついで、
「実は君、拙者はこのごろ、三十六童子の姿をうつしてみたいと思って苦心しているところなんだ、不動明王の眷族《けんぞく》三十六の童子を、古例になずまずに、おのおのその性格によって
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