いけないよ、君」
絵師は落着いているけれども、米友はムカムカと来ました。いつぞや金助という男は、この手で米友を嘲弄《ちょうろう》して、両国橋から大川へ投げ込まれたことがある。絵師もまた危ない刃渡りをしているようなものです。
「君、拙者は君を侮辱するつもりでいうんじゃないよ、他人を侮辱するには自分の現在というものが、ごらんの通りあまりに貧弱だ。ただしかし、世間の賞美する人間の面《つら》という面が、ことごとく押絵細工同様の薄っぺらなものであるところへ、君の面を見て僕は驚歎してしまったのだ。拙者は足利《あしかが》の田山白雲という貧乏絵師だが、今日はこれからなけなしの財嚢《ざいのう》を傾けて、君のためにおごりたいのだ、ぜひつき合ってくれ給え」
足利の絵師田山白雲と、宇治山田の米友とが会話最中、
「人気者が来た!」
たださえ、物見高い浅草の広小路附近に、潮のような群れが溢れ返って、
「人気者が来た!」
口々に喚《わめ》き叫んで、押しつ押されつ非常なる混雑になってしまったから、自然二人の対話も途切れて、その人だかりをながめないわけにはゆきません。
「みい[#「みい」に傍点]ちゃん、人気者が
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