、お雪はなんだか鉛のように重いものが、このうららかな天気を圧して、青天白日の間に鬼火が流れるように、ゾクゾクと寒気《さむけ》が立ち、書院の火燈口《かとうぐち》の方を見やると、そこに微かな人の咳《しわぶき》の声がします。
「弁信さん、お前、怖くはないの?」
と言って見た時、平然として坐っていた弁信の面《かお》の色が真蒼《まっさお》でありました。
二十二
宇治山田の米友は、道庵先生のために、圧倒的に説き伏せられて、とうとう上方行きの随行を承知することになってしまいました。
米友にとっては、道庵が命の親であるのみならず、たしかに一箇の苦手《にがて》で、この人に向うと、得意のタンカも切れなくなってしまい、苦々《にがにが》しい思いをしたが、それといって今の身分で、道庵の頼みを拒《こば》むべき理由もなく、かえって無意味に遊んでいるよりは、有益なことには違いないから、ともかくも返答に三日の猶予を置いて、これから小石川へ帰ろうとします。
気の短い道庵は、お仕着せや、そのほか旅の用意をその場で調《ととの》えて、それを風呂敷に包んで、米友に背負《せお》わせました。そこで米友は、
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