人連中(あまり美人でないのもある)を相手に、しきりに無駄口を叩いている。歳はまだ若いが、でっぷり太って、素肌に羽二重の袷《あわせ》、一《ひと》つ印籠《いんろう》というこしらえで、
「そいつぁ乙だ、一番その朝比奈《あさひな》の口上言いというのを買って出ようかな」
「福兄さんが朝比奈をやって下されば、巴御前《ともえごぜん》はわたしのものでしょう」
と、腹が痛いと言って寝込んでいた力持のお勢が乗り出して来ると、はた[#「はた」に傍点]にいた美人連が、
「お勢さんの巴御前に、福兄さんの朝比奈は動かないところだわ。それでは、わたしは何を買って出ようか知ら」
「わたし、おちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]になるわよ」
「わたしも、おちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]」
「では、わたしもおちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]になりましょう」
「あなたお米屋のおちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]になりなさい、わたし酒屋のおちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]になるわ」
「そう、それじゃ、わたしお肴屋《さかなや》のおちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]になるから、あなた薪屋のおちゃっぴ
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