から行って来るから、お留守を頼みますよ」
「行っていらっしゃいまし」
「もし留守の間に、誰か尋ねて来ても、わからないと言って帰しておくれ」
「よろしうございます。それでもお母さん、いつかのように、わからなければ旦那のお帰りまで待っていると言って、坐り込むような人が来たらどうしましょう」
「そうね。では、面倒だから鍵をかけておしまい」
「はい」
「そんなに遅くならないうち帰って来るつもりだけれど、福兄さんとの話の都合で、もし遅くなるようだったら、誰かをお相手によこすから」
「承知いたしました」
「それからね、二階のお嬢様がモシどこかへ出たがっても、お出し申さないように。そうそう、勢ちゃんが病気なら、勢ちゃんをお伽《とぎ》によこそう」
「お勢さんが来てくれれば、本当の百人力ですけれど、わたし一人でも大丈夫ですよ」
「勢ちゃんをよこしましょう」
と言ってお角は、この家を出て行きました。
十八
両国の女軽業師の楽屋へ来て、お角を待っている福兄《ふくにい》なるものは、御家人崩れの福村のことで、巣鴨の化物屋敷では、天晴《あっぱ》れ神尾主膳の片腕でありました。
今、楽屋の美
前へ
次へ
全338ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング