人並よりはズンと息が長いのだし、一晩二晩寝なかったところが何ともないように生れているが、世間の人がみんなそうではない。そこで、いささかでも弁信の安眠を妨げないように、自分も心置きなく、暫くでもこの笛を吹き試みて遊びたいという心から、また廊下へ出てみました。廊下へ出てみたところで、やっぱりその響きが、弁信を驚かそうという心配は同じことです。
笛を携えて庭へ下りて、軒に立てかけた梯子《はしご》を見上げると、屋根の上高く櫓《やぐら》が組んであるのを認めました。
物干にしては高過ぎる、と思いながら、あそこなら誰憚らず笛を吹いてみるに恰好《かっこう》だと思いました。
この櫓というのは、道庵先生が鰡八大尽《ぼらはちだいじん》に対抗して、馬鹿囃子《ばかばやし》を興行するために特に組み上げた櫓の名残りであります。
茂太郎が屋根の上の櫓で、誰憚らず笛を吹こうと上ってみたところが、大尽の御殿の広間に多数の人が集まっているのが、そこから手に取るように見下ろすことができます。
見れば、それは、やはり踊っているのであります。しかも踊っているのは、いずれも綺羅《きら》びやかな人ばかりであります。
さて
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