けいがん》を光らして見ると、つきとめたのが本所の相生町の老女の家です。南条や五十嵐がこの家に出入りしていること、時としてそこを住居として逗留していることを知るのは、山崎の手腕ではたいした難事ではありませんでした。
 それで、あらまし老女の家の内外の形勢の予備知識を得ておいてから、その内状を発《あば》きにかかるべく、いかなる手段を取ろうかと考えたが、これは拙《へた》なことをするよりは、いきなり南条にぶっつかって、その度胆《どぎも》を抜いてやるのが面白かろうと、結局、こうして今日、押しかけてみたわけです。押しかけてみると南条以外に珍らしい獲物《えもの》がありました。しかしながら、南条も宇津木も、それはまだ末で、例の巨根はそこから蔓《つる》を張っている薩州屋敷にある。将軍不在に乗じて、江戸を騒がすことの根源はそこにある、ということのみきわめが大事であります。
 山崎はそれを考えながら、両国の見世物小屋のある方へと知らず知らず足を引かれて来ました。
 ところが、そのなかのひときわ大きな見世物小屋に「江戸の花 女軽業」の看板が掛っています。その看板の文字を山崎が眺めていると、筆蹟に見覚えがある。
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