くてか、「大乱《おおみだ》れ」という形になっていました。これは多数の太刀《たち》を相手に応対する時、十文字槍の人が好んで用ゆる姿勢で、槍を中取《ちゅうど》りに持つのを米友は、もう少し突きつめているだけが違います。この姿勢で充分に使わせると、左右を薙《な》ぎ立てることができます。近寄るのを追払って寄せつけないことができます。また薙刀《なぎなた》をつかうと同じように使って、敵を左右へ刎退《はねの》け、突きのけることもできます。面と、腕と、膝との三段を、透間《すきま》もなく責め立てて敵を悩ますこともできます。太刀を取って向って来るものを上段に突き出して、脇架《わきか》に大きく引き取ることも自在です。米友は心あって宝蔵院流の大乱れの型を用いているのではなかろうけれど、その構えがおのずからそうなっていることは争えません。争えない証拠には、タジタジと後ろへさがる者はあっても、米友の槍先に向って行こうとする者がないのであります。
米友が大乱れに取っていることが、米友自らの気取りでないくらいだから、立っている者もまた、本式にそれを受取ることのできないのは勿論《もちろん》です。ただ精悍無比《せいかんむ
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