て、火で焼け死ぬ前に、人は煙のために窒息してしまわねばならないことは明らかです。
 身仕度したお銀様は、この際に何を持って出ようとの分別はありませんでした。手に触れた一本の脇差を持って、土蔵の二階の梯子段を転がるように走せ下りました。
「お喋り坊主、何か文句があるならここで一番、喋ってみろ、久しく乾いているから、メラメラと赤い舌を出して小気味よく燃える、井戸の底へ投げ込まれて往生をしそこなうのと、火の中で苦しがるのとどちらがよい、貴様のために、この面体《めんてい》に生れもつかぬ大傷が出来た、それが憎いからこうしてくれるのだ、よく焼かれて往生しろ」
 神尾主膳は濡れみづくになった身体で、燃えさかる火を望んでは喜び狂い、手に持った槍の石突を火の中へ突込んでは薪を浮かせて、火勢を煽《あお》ろうとしています。
 頭から掻巻《かいまき》を被《かぶ》ったお銀様が、内から戸を押開いて、脱兎《だっと》の勢いで、その燃えさかる火の中へ飛び出したのはこの時であります。
「熱《あつ》、熱、熱」
 お銀様は火を踏んで、掻巻もろともにその中を転がり出しました。
「熱、熱、熱」
 同じように叫んで火の外に転がった
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