なお銀様がそこに気のつかないはずはありません。同時にまた走り出せば当然、神尾の網にひっかかることを覚悟しなければならないのを知らないはずはありません。神尾の憎んでいるのは盲法師の弁信にあるらしいけれど、さりとてこうなった時には、獲物《えもの》の見さかいがあるべしとは思われない。土蔵の戸前を突破し得た時は、神尾の槍先が待っている。最後までここに踏みとどまって焼け死ぬか、それとも一刻を争うて突破を試むるか。お銀様は手早く身づくろいしました。同時に神尾の声高く笑うのが聞えます。
「アハハハハ、火水《ひみず》の苦しみとはこれだ、水の中へ投げ込まれて往生のしきれぬ奴が、火の中で焼け死ぬのだ、お喋り坊主、これでも出て来ないか」
 パチパチと火の燃える音が聞えます。プスプスと枯葉のいぶる音も聞えます。土蔵の戸前は非常に厚味のある板を二重に張って、中には筋鉄《すじがね》が入って、上の部分がやっと日の目の透るほどの格子になっているから、そう容易《たやす》く焼け抜けるとも思われないが、相手は火であるから、相当の時間と力が加われば何物をも燃やしてしまいます。それが燃える時分には、土蔵の中は煙でいっぱいになっ
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