へ動き出したから、こうなってみるとがんりき[#「がんりき」に傍点]も、それを追蒐《おいか》けて袂を引くのもみっともないとあきらめたのか、だまって見送っているだけでした。
「や、こりゃ、どうも兄さん有難う」
ようやくのことで、番傘を差しかけてくれている米友の好意に気がついてみると、がんりき[#「がんりき」に傍点]も動き出さなければなりません。動き出したところで今度は蛇の目の傘ではなく、番傘で、そうして相合傘の主も、得体《えたい》の知れぬ河童《かっぱ》のような男だから、多少うんざりしないわけにはゆかない。しかしながら、がんりき[#「がんりき」に傍点]はさすがに如才《じょさい》ないところがあるから、金助のように見てくれだけで頭ごなしに米友を侮辱するようなことはありません。
「兄さん、お前さんは、どっちへおいでなさるんだね。わたしゃ、そこいらで、ちょっと一杯やりたいんだが、なんなら附合っておくんなさいな」
と優しく米友を誘いました。
「おいらは、そうしてもいられねえんだ、一杯やるんならおめえひとりでやんねえ、傘はおめえに貸してやらあ」
こう言って米友に番傘を差しつけられたから、さすがのがん
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