と用足しに……」
 お角としては怪しいほど神妙に返事をしました。
「お連れがおありなさるの」
「いいえ……」
と言ったけれども、それは甚だまずい言抜けに過ぎません。
「もし、御用がないのなら済みませんが、そこまで、わたしと一緒に来て下さいませんか」
 お銀様からこう言われたのが、この場合、お角にとっては勿怪《もっけ》の幸いであったらしく、
「はい、お伴《とも》を致しましょう」
と言ってしまいました。それで納まらないがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵が向き直るとお角は、それにカブせるように、
「百蔵さん、このお方は、もと、わたしのお世話になった御主人様のお嬢様ですから、わたしはちょっと御一緒に行って参ります、それで今晩はあそこへ行くのはやめましょう、直ぐに帰りますから、両国へ行って待っていて下さい。友さん、お前も両国へおいで」
 そこで相合傘が、また二つにわかれました。
 お角のさして来た蛇の目の傘には、お銀様が入り、お銀様のさしていた番傘を米友に渡すと、米友は、それを受取って不承不承に、がんりき[#「がんりき」に傍点]の上へ差しかけます。
 蛇の目の傘は両女を容れたまま、もと来た方
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