でめぐり会った米友をおかしいと思うと共に、それと相合傘をしていたお高祖頭巾《こそずきん》の女の人を、お角は不審に思わないわけにはゆきません。ところが、お高祖頭巾の女の方では、さいぜんから、ちゃんと心得たもので、頭巾の中からお角の面を見据えるようにしていましたので、お角もなんだか気味が悪く思いました。
「おや、あなたは……」
 今度はたしかにお角の方がギョッとしました。お角に呼び留められた米友は、てんで気を呑まれてしまったが、この覆面の女に見据えられたお角は、物怪《もののけ》につかれたように立ち竦《すく》んだのは稀れに見る光景であります。
 米友にとってはお角が苦手であるように、お角にとってはお銀様が苦手であります。米友は、お角から言葉をかけられても頓《とみ》には返事ができません。お角は、お銀様に正面から見据えられて、しどろもどろです。
 この三スクミの体《てい》を傍から見ていたがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵は、委細を知らないから、なんとも口出しがならず、川の流れを横目に見ていました。
「お角さん、お前さんはどこへ行くの」
と言ったのはお銀様であります。
「はい、そこまで、ちょっ
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