りき[#「がんりき」に傍点]も苦笑いをしないわけにはゆきません。せっかくの相合傘の相手が振替えられた上に、その振替えられた相手から刎《は》ねられる始末だから、いやはや、色男も台なしという体《てい》でありました。そうして詮方《せんかた》なく苦笑いをしながら、
「それでも兄さん、わたしが傘を借りてしまったら、お前さんは濡れるんだろう」
「おいらなんぞは濡れたっていいやな、土団子《つちだんご》じゃあるめえし」
米友がこう言いました。米友が土団子じゃあるめえしと言ったのは、洒落《しゃれ》でも警句でもないだけに、おかしいところがあります。どちらかと言えば米友は、土団子のような人間でありますから、がんりき[#「がんりき」に傍点]もおかしく思いながら、
「土団子でねえにしても、お前さんを濡らしちゃ気の毒だ。それじゃあ、わたしはそこいらで一杯やることにしますからね、兄さん、御苦労だが、そこまで送ってやっておくんなさいな。ナニ、どっちでもかまわねえんだ、あいつらが両国の方へ行ったから、同じ方へ行くのも癪《しゃく》だ、代地《だいち》の方へ行きましょうよ」
こう言ってがんりき[#「がんりき」に傍点]が、
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