何とやらの殿様とは、あんまり桁が違い過ぎるけれど、女軽業の親方と駒井能登守とは、あんまり桁が違わねえのかい」
「まあお前さん、それを知っているの、駒井の殿様を御存じなの」
「ばかにするない、甲州勤番支配の時分から先刻御承知の殿様だ、鉄砲が大層お上手だそうだけれど、女にかけては根っから二本棒の殿様だ、身分違いのロクでもねえ女にひっかかって、あったら家柄を棒に振ってしまった殿様なんだ。どこをどうしたか、それをこのごろお前《めえ》が引っかけて物にしているということが、いつまでがんりき[#「がんりき」に傍点]の耳へ入らずにいると思っているのだ。そりゃ痩せても枯れても、もとは三千石の駒井能登守、お前の腕で絞ったら、まだずいぶん絞り甲斐もあるだろうが、そんな気のいい殿様を、お前のようないかもの[#「いかもの」に傍点]に二度三度絞らせておいちゃ、見ても聞いてもいられねえ、お目にかかって御意見を申し上げようと思っているのだ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]はこう言って歩き出したから、お角も仕方がなしに傘をさしかけて、二人は相合傘の形で柳橋を渡りました。
がんりき[#「がんりき」に傍点]からこう言
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