入ってお伴《とも》が願いたいんだ、亭主と一緒には行けねえところへ、相合傘《あいあいがさ》で乗り込もうという寸法が、面白いじゃねえか」
「お前さん、何かいや[#「いや」に傍点]に気を廻しているね、わたしのこれから行こうとするのは、そんなわけじゃありませんよ、後暗いことなんぞはありゃしませんよ」
「誰もお前に後暗いことがあったとは言わねえ、だから一緒に出かけて、先方のお方にもお目にかかって、お前がいろいろお世話になるんならお世話になるように、俺の方からもお礼を申し上げておきてえのだ」
「あいにく、それがお前さんとは、ちっとばかり話の合わない人なんだから、お目にかかったって仕方がないよ」
「話が合うか合わないか、話してみなけりゃ判らねえや」
「だって、先方《むこう》は殿様だもの」
「おや、殿様だって? どこのどうした殿様だか知らねえが、お前《めえ》が特別の御贔屓《ごひいき》にあずかっている殿様へ、おいらがお礼を申し上げて悪かろう道理はなかろうじゃねえか」
「それにしたってお前、あの殿様とお前さんとは、あんまり桁《けた》が違い過ぎるからね」
「なるほど、このがんりき[#「がんりき」に傍点]と、
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