てん》を着た遊び人|体《てい》の男が、横合いから、ひょいと出て来て、いきなり、お角の差している傘の中へ飛び込んだから、お角も驚きました。
「何をするの」
「お角、久しぶりだな」
それは玄冶店《げんやだな》の与三郎もどきの文句でありました。その文句でお角が気がついて、
「おや、百さんじゃないか」
「うむ、百だよ」
と言いました。この頬冠りこそ、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵です。
「なんだってお前、こんなところにいたの、両国へ訪ねて来ればいいじゃないか」
「両国へ訪ねて行ったんじゃ、バツの悪いことがあるから、ここに待ち合せていたんだ」
「雨の降るのに、傘もささないで」
「柳の下に、お前の来るのを、ぼんやりと待っていたんだ」
「わたしはこれから、ちょっとそこまで用足しに行って来るから、お前さん小屋へ行くのがいやなら、そこいらで一杯やりながら待っていておくれ」
「そいつもいやだ、お前《めえ》の行くところへ一緒に行きてえんだ、そうでなくってお前、雨の降るのにこうして、柳の下に立っていられるものかな」
「だって、わたしは、お前さんと一緒じゃ行かれないところへ行くんだから」
「だから、折
前へ
次へ
全221ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング