ります。彼等は、甲府の城を拠点として、容易ならぬ陰謀を企《くわだ》てんとしていることも明らかであります。
 それを察した山崎らは、事の発せざるうちに、その巣窟を覆《くつがえ》してしまわなければならぬ――蓋《けだ》し、南条、五十嵐らは強力《ごうりき》に身をやつして都合五人で、この山道へ分け入ったけれども、必ず何れかに根拠地があって、そこでひとたび合図をすれば、なお幾多の同志が続々と集まって来ることにはなっているだろう。また山崎こそは単身で、あとを追いかけたようなものだが、甲府の地へ足を踏み入れた時は、勤番の武士は一呼《いっこ》して皆、その味方になるべきはずである。
 しかしながら、どう間違ったものか山崎と七兵衛との二人は、ついに南条、五十嵐らの一行を突き留めることができないで、甲府の城下に着いてしまいました。山崎も七兵衛も、その用心にかけては優劣のない方ですから、同じ道を通ったならば、彼等に出し抜かれるはずはない。道を違えたものか、或いは横道をして外《そ》らしたものか、それはとにかく、早く甲府の城下へ到着することが先手である、と思ったから二人は、無二無三に甲府の城下へ到着しました。
 城
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