てしまったところが、眼に残っているような、眼に残っていないような、変な心持だ」
「わたしはまた、ひょっと振返って見た時に、幽霊! と思いましたよ、あの顔色をごらんなさい、まるで生きた人じゃありませんね、この世の人じゃありませんよ」
「いやだね、全くいやな気持のする人だ、一目見ただけでゾッとする人だ、あんなのは、キット戸の透間《すきま》からでも入って来る人ですぜ」
「あんなのがお前、辻斬に出るんじゃないか知ら」
「だって、盲目ではね」
「目が明いていたら、きっとやるに違いない、剣難の相というのは、たしかにあんなのを言うんだろう」
「そうだね、あれこそ剣難の相というんだろう、畳の上じゃ死ねない人相だ、人を斬って業《ごう》が祟《たた》ったから、それで盲目になったんだろう」
「そう言えばそうだ、ありゃ、確かに剣難の相というものだ、人相は争われない」
「全く人相は争われない、剣難の相はどこかに凄味《すごみ》がある、女難の相は鼻の下が長い」
「笑いごとではありません、皆さんが剣難の相とおっしゃったのは、よく当っている、わたしゃね、皆さんよりいちばん先に、あのおさむらいが下から上って来るところを見ま
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