駒井甚三郎は提灯を高くして、その少年の姿を見ようとしたけれど、やはり充分に光が届かないのが残念です。
「いかにも、私には三人の連れの者がありました、途中においてその者の姿を見失いたるが故に心許《こころもと》なく、これまで追いかけて参りました」
「おおその三人は……ここに斬られている、多分、これらの人たちがそれではないか」
「ええ?」
離れている少年は、その時に、つつと橋板の方まで馳《は》せ寄って来ました。しかしながら、刀の鯉口は切って、寧《むし》ろ、駒井甚三郎を斬らんとして飛びかかって来るもののようです。駒井は提灯を楯《たて》に、その鋭鋒を避けんとするものであるかの如く見えます。
「その斬られた人々は、いずれにござります」
「これへおいであれ」
甚三郎は自身、橋の上へ引返して案内しようとする。それと並び寄るかのように少年は、刀の柄《つか》に手をかけて、
「貴殿はそもそも、いずれのお方でござる」
こう言って詰問の体《てい》であります。返答の出ようによっては、たちどころに斬ってかかろうとする事の体でありました。駒井甚三郎は提灯をかざして、やはり、その少年の鋭鋒を避けるようにしながら、
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